建築から学ぶこと

2014/11/05

No. 448

伊丹での小さな試み

台柿は、へたを下にすると、台に置いたかのように座りが安定するところから、その名がついた。頼山陽が好んだこの台柿は、今は数少なく、伊丹市立美術館(兵庫県)の庭に辛うじて残っている。伊丹には、数少なくなったこの柿を幅広く継承する取り組みがあるという。さて、先日この小ぶりな美術館と少し縁が生まれた。私が代表を務める「美術館にアートを贈る会」(2004年活動開始)が、アーティスト・今村源さんの作品「シダとなる・イタミ2013」を贈呈する運びになったのである。

この会は、市民がひとつの優れたアート作品を選んで美術館に共同で寄贈する活動。そのプロセスのなかで、市民と美術館、アーティストの間に作品を介して切れない確実な線を引くねらいがある。作品は、その都度その場所に場ふさわしい作品を選ぶ手順があり、寄贈に加わる顔ぶれには変化もある。第1弾で西宮市大谷記念美術館(藤本由紀夫作品)、第2弾を和歌山県立近代美術館(栗田宏一作品)、滋賀県立近代美術館(伊庭靖子作品)が第3弾と歩みを進めた。今回の作家・今村源さんは力のある作家で、この美術館とは個展開催をはじめゆかりがあり、今回の対象作品もこの美術館で展示することを想定して制作した比較的新しい作品である。ここには自然な縁があり、そこは大事なポイントとなっている。

ところで、会の活動の中では、美術館とは誰のものか?という問いかけをずっとおこなってきた。美術や美術館をかけがえのないものと思う人はたくさんいるが、普段は関係がつくりにくい。そこでささやかな連帯と跳躍を試みることで、お互いの考えや立場への理解が進むのではないか。それぞれの視点からの地域や美術館の未来を築くことができるかもしれない。活動のなかでそのような仮説を検証してきていると言える。

この、地域における小さな革命は、続いて第5弾の準備に入ってゆく。責任感を持ちつつ、しかしあまりあせらずにこの活動を続けてゆこうと考えている。それこそ、台柿をひとつひとつ皿の上に置いてゆくような感じで。

佐野吉彦

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