建築から学ぶこと

2023/02/08

No. 855

一見ぶっきらぼうだが、魅力的な本の数々

手元にある3冊の本のことを、それぞれを取りまとめる役割を果たした方を通して知った。いずれも昨年発刊され、真面目な体裁ながら、建築と土木に関わる知見に満ちた分厚い本である。ひとつは「JAPIC国土造りプロジェクト構想」[JAPIC:(一社)日本プロジェクト産業協議会編、産経新聞出版刊]は、日本の各地でインフラ整備が必要ではないかという提言書だが、具体事例が豊かである。橋梁やトンネルで解決する、土木技術本流の提案に留まらず、津軽海峡新トンネルには自動運転車専用道路を適用し、四国では、新幹線を含む交通サービス全体の再構成を提案している。京都や日光の道路状況を緩和するためには、資金調達の知恵を組み合わせるなど、多岐にわたる視野は興味深い。
もうひとつの「刑務所建築史 戦前編」[矯正建築歴史研究会編 、(公財)矯正協会刊]は、明治以降の刑務所建築の歩みをたどるもので、明治の政治家が、不平等条約改正のために法治国家確立を目指す覚悟が、優秀な技術者を集め、品格のある刑務所建築の実現に導いたのである。その精神は奈良監獄(1908)のデザインに宿っているが、その後登場した、後藤慶二が設計した豊多摩監獄(1915)や蒲原重雄による小菅刑務所(1929)は分離派の成果として歴史に名を遺した。こう見れば、刑務所の設計は日本の近代建築を力強く転換させる力を有していたと言うことができる。新鮮な驚きに満ちた本である。
最後に挙げる「ガスと給湯の50年」[(一財)ベターリビング制作・刊]は、給湯器の技術史と社会史を扱いながら、建築の質とは何か、どうあるべきかを多角的に追究している。一見地味な切り口で一冊まとめ切る腕力も見事だが、いろいろな書き手が実に楽しく書いている。そうだ、建築や土木とは、こうした愉悦が必要だろう。そのポジティブさが新しい技術を導き、より良い社会を招来するのである。

佐野吉彦

筋の通った本。

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