建築から学ぶこと

2021/01/13

No. 753

情報の時代を支える、共同の場

いま、情報をめぐる歴史の大きな転換期にある。ネットワーク技術の進化とともに、情報を伝達するスピードがほぼゼロになった。こうなると、プレイヤーに求められるのは情報収集力ではなく、多要素の編集力に他ならない。つまり、情報の真贋を見きわめながら、いかに要素を束ねて新たな価値を生み出すかといった点が重要になる。まず重要なのは、個がそうした強さを持つことである。そして、個が異なる個と交わるなかで、「相互に編集しあえる」動きが醸成されることである。この流れは次の時代を正しく導くであろう。
それを支えるには何が必要か。近刊<建築情報学へ>(建築情報学会監修millegraph 2020.12)で、石澤宰さんが「建築の職能とは、広汎にわたる技術をプロジェクトに位置づけ、適切な方向性を設定して協力関係を構築することだ。重要なのは、「共同責任」の意識である。デジタルであるか否かを問わず、その基礎をなす感覚が倫理感であり、それは育成するし、鍛えることができる」と書いている。それはまず、世界のありようや問題意識が、建築が取り組んできたことに近づいてきたことを示しているとも言える。
同時に、どの分野においても、共同の場づくりが重要であることを示唆している。それについて、山崎正和さん(1934-2020)をめぐるアンソロジー、<それぞれの山崎正和>(別冊アスティオン、CCCメディアハウス 2020.12)で鹿島茂さんが言及していた。サントリー文化財団設立とサントリー学芸賞創設の舵取りをした山崎さんは「優れた業績を残した学者を選ぶのではなく、ジャーナリズムにおいても発信能力を有する学者を選ぶ」視点を持ち、「サントリー学芸賞をジャーナリズムという「共同の場」で活躍できる人材の供給基地としようとしていた」と述べている。
山崎さんは、批判的知性を持つ「個」と「共同におけるふるまいかた」の両方の育成を見据えていた。情報をうまく展開させるにも、きちんと手をかけて基盤をつくり、人材を生み出すことが鍵のようである。

佐野吉彦

スポーツもまた、共同性を育む。

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