2016/01/06
No. 505
さきごろ文庫化された梅棹忠夫氏の旧著「日本語と事務革命」(講談社学術文庫)には、彼が1960-70年代に取り組んだカナモジ・タイプライター開発に至る<思考と行動>の記録が収められている。手書きの事務作業が知的生産を滞らせかねない状況を見て、日本を発展させるには事務と日本語を革命的に軽量化することが必要と感じたのだ。その後ワープロからPCへとあらたな事務機器が充実したことで、日本におけるビジネス改革は半ば成就し、半ば夭折した。それでも日本は80年代にグローバルな勝者になることができたが、それから地位は徐々に下がっている。いま、高齢化した社会をどのようにスマートな社会に転換するかがテーマとなっている日本に対して、この本にある改革精神は適切な知見を提供するのではないか。
今年は、AI(人工知能)が著しく進展する年になる。その到達点とされる2045年も早まることも予想されている。楽観的に捉えれば、AIやロボティクスが人間と人間社会の能力を大きく拡張する期待がある。同時にそれらはさまざまな分野で既存のビジネスモデルの転換を促すものであり、建築分野においてもそれぞれの専門家に求められる能力を変化させる触媒となる。従って、その動きを受動的に眺めていてはいけない。日常で扱う情報の量とスピードが増大する時代には、何がAIやロボティクスには委ねきれない価値や能力なのかを掘り下げることが必要である。
たとえば、リーダーシップや、オリジナルな価値をつくりだす力といったものはそれに当たるが、他に何があるだろう?日本がこれから新たな社会システムやビジネスモデルをグローバルに打ちだすなら、その見定めを急がねばならない。2016年を、梅棹さんが取り組んだような<思考と行動>のクライマックスにしたいものだ。