建築から学ぶこと

2013/07/03

No. 382

微風の浜辺の、懐かしいデザイン

The first day of Summer. 北米では、夏至の日のことをそう呼ぶ。その、短い夏が始まって3日目の午後、ロサンジェルス近郊で興味深いツアーに加わった。サンタモニカからベニスビーチにかけての住宅を訪ねて回る企画である。ラインアップ(と建築家)は①Alan Voo House(ニール・デナーリ:増築・改修2007)、 ②Petal House(エリック・オウエン・モス:増築・改修1982)、 ③Spiller House(フランク・ゲーリー:1980)、④ 2-4-6-8 House(モルフォシス:1978)などなど。最後はこのツアーの運営者であるMAK Centerが置かれている⑤ Schindler House(ルドルフ・シンドラー:1922)を訪ねて終わる。つまりは、竣工年をさかのぼる順序となった。

ゆっくりと車を走らせ、目的地を探しながら巡ることによって、その場所にその建築家を起用したことの意味を感得してゆく。デザインは住宅地のコンテクストとスケール感にうまくフィットしているようでありながら、精神としては立ち向かっているようでもある。それは建築家の魂か、住まい手の魂か。それぞれの住宅をつくる発意とプロセスのなかで、住まい手の意思だけでなく、家族構成変化や近隣地域とのつきあいかたも、建築のかたちに組みこまれている。いずれの居室もコンパクトで、感じの良いコートヤードも巧み。どこかに日本的な空気がある。そのクオリティ高い空間は青い空とつながり、明るい響きをつくりだしていた。

もちろん、日本建築が通奏低音にあるようなシンドラーハウスにも感覚は共有されている。リチャード・ノイトラの住宅も含めて眺めれば、LAエリアの建築スタイルには日本の建築デザイン手法がどこかで上手に織り込まれ、消化されたかと思う。あるいはお互いがモダニズムの時代の中で伴走を続けたというのが正しいかもしれない。

かつてバブル期に多くの日本の事業者や建築家が西海岸を訪ね、当地の風物を取り込んでポストモダン「的」デザインを日本に移入したものだ。それは表層的な側面が強いが、これは面白い逆ベクトル現象と言える。何だかんだで、この地域の風光にはいろいろ不思議な懐かしさを感じてしまうのだ。

through the courtesy of M.Ito, JF-LA

佐野吉彦

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