建築から学ぶこと

2015/09/30

No. 492

三鷹の10年をどう引き継いでゆくか

三鷹天命反転住宅の完成から10年。この9月の1週間、様々な記念プログラムが開催された。荒川修作(1936-2010)の着想に基づき、安井建築設計事務所の設計監理でつくられた9戸の集合住宅は、荒川の死を経ても生気は失われていない。三鷹を取りまとめる本間桃世さんの功績であるが、荒川の思想を「経験」する場として様々な試みが続けられている。20日は、その3人の建築家、荒川と交友のあった藤井博巳さん・この住宅に住む辻真悟さんと私とで「第二、第三の天命反転住宅建設は可能か」と題するトークをおこなった。荒川は本来建築の人ではないけれど、これまで彼に由来する言葉やアクションは、人を建築の道に誘いいれたり、建築の専門家に刺激を与えたりしてきた。その場にいた一同は、三鷹的なイメージをどうそのまま引き継ぐかということよりも、建築と人間の根源を問い直す荒川の深掘りした思考をどう引き受けるかに関心の重きを置いていた。

三鷹の構想の行く手には、環状集落的なユートピア的・オートポエーシス的な世界があり、荒川にとっては、三鷹はその手掛かりに過ぎなかった。荒川はすでにこの世にいないが、彼が用意した楽観的とも見える反復造形のイメージは、誰でも意思のバトンを受けることが可能というわかりやすいメッセージだとも言えるだろう。たぶん、このところ急速に進化してきたAI(人工知能)の状況判断・解決能力を荒川が知っていたなら、これを重要なパートナーとして活用しようと考えたかもしれない。創造力とは異なるものを結びつける能力だというが、荒川には人が気づかない谷間に見事なアーチを架ける発想をするだろうと感じるのである。

じつは、哲学の分野で荒川の仕事を検証する試みが続いているのに比べ、建築分野ではまだ十分位置づけが与えられていない。私にはそれがまず必要に思える。そのようなことを含めて、熱いながら和やかな議論を交わしあった20日であった。

佐野吉彦

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