建築から学ぶこと

2022/03/09

No. 810

学ぶ場をつくる

年度末を控えた2月から3月、いくつかの教育施設の竣工を迎えた。いつもながら、理事長あるいは校長といった教育のリーダーたちの熱意と構想力に引っ張られて最後までこぎつけることになる。それぞれの情熱は異なるので、できあがる建築の貌も違うものにまとまるのが面白い。当然ながらわれわれ設計者は、学校建築こそ人を導く最良のテクストだと自負して臨んでいるが、設計から竣工に至る時間は、関係者がそのことの相互理解に至る幸せなプロセスだと言える。

まず、建築はいまある教育がどのような基盤の上に築き上げられてきたかを感じさせることが望ましい。それは学ぶ側も教える側双方にとって重要な意味がある。たとえば古い校舎にあった空間の感覚を受け継ぐ切り口が必要かもしれないし、校庭に残る一本の木や、周囲に聳える山をまぶしく見上げるところにスポットライトを当てる趣向が適切かもしれない。この面では、建築は魅力的な要素を上手に引き立てる役割を担っている。

一方で、教育の明日を見つめることも重要である。新築には、新たな生徒を集めての開校、これまでの敷地を移転しての新展開、合併による再出発などいろいろなケースがあるだろう。ここでは、建築にこれから学校が目指すところを指し示す新しさや驚きが期待されると言えようか。アクロバティックでなくてもよいが、教える側に多少の身震いが起こらなければ、新たな教育のスタートを切ることはできないだろう。

一方で、教育にとって大事なのは、教える側も学ぶ側も、いろいろな世代が刺激しあい、切磋琢磨しあうことである。お互いの対話が自然に始まる場面をどう設定するかについても、過剰な仕掛けではなく、きっかけとなる場所をさりげなくつくりたい。いずれそこが大きく歴史を変える源流になってゆくことを期待しつつ。

佐野吉彦

身震いもあり、出会いもある新しい風景(大阪国際中学校高等学校)

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