建築から学ぶこと

2019/01/23

No. 656

国際的なフレームをつくる

昨年11月、UNESCOとUIA(国際建築家連合)は「World Capitals of Architecture(建築における世界首都)」制定を取り決めた。両者はこのところ、持続可能な社会を目指すアクションで提携を深めてきた。都市こそはその実現の舞台である。UIA側は、建築家が地方自治体やコミュニティと連携してどのような貢献ができるかを考え行動することになる。そして1月に入って、初弾として2020年の世界首都の呼称をリオ・デ・ジャネイロに与えることが発表された。同年に当地で開催されるUIA大会はこの制定の意義の大きなアピールになる。今回の選定を見ると、成果の顕彰より、今後のチャレンジに多くの可能性を認めるものを選んでゆくのではと思われる。このような、都市をクローズアップする試みには「欧州文化首都」やドイツの「自然・環境保護の連邦首都」などの事例があるが、「World Capitals of Architecture」は、地域に留まらず、世界が共有すべき精神と方向性を探り当てようとしているようだ。
話はやや変わるが、1928年に締結した<パリ不戦条約>によって、世界ははじめて侵略戦争を違法とした。戦争がまだ交渉の効果的手段となっていた時代に、「世界がいかに運営されるべきかについて、強い信念を持っていた」国際主義者たち(*1)は、この条約の実現に奔走した。そのヴィジョンは第2次大戦をはさんで国連の設立へとつながる。ここにある「国境を越えた文化の交流を通して協調的な国際秩序を作ろうとする動きは、現代の世界にあっては極めて重要な役割をはたしている」(*2)という視点は、国連の一機関であるUNESCOの取り組みにもずっと投影している。現実として、自国第一主義は効果をもたらさない。国際的なフレームを構築する努力はいまこそ重要だ。UNESCOとUIAが踏み出した一歩には注目しておきたい。

 

*1 「The Internationalists: How A Radical Plan To Outlaw War Remade The World (邦題「逆転の大戦争史」、ハサウェイ+シャピーロ/文藝春秋2018)に登場するサーモン・レヴィンソン、ジェームズ・トムソン・シットウェル、サムナー・ウェルズ、ハーシュ・ローターパクトらを指す。
*2 20年ほど前の、国際政治学者の入江昭氏による講演<国際主義の系譜>から。

佐野吉彦

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