2023/11/15
No. 893
大阪ガスの新しい研究開発拠点施設が着工した。メタネーションの技術確立と応用などを目指す施設である。そもそもメタネーションとは、水素とCO₂から都市ガスの主成分であるメタンを合成する技術で(大阪ガスによる定義)、そこからビジネスを展開する視点があるようだ。敷地を取り巻くエリアは酉島と呼ばれており、大阪中心市街地から見て酉の方角、つまり真西にあって、平行する淀川と正蓮寺川に挟みこまれた、幅のある短冊の形状をしている。大阪ガスは1940年からここに酉島工場を置いていたが、すでに石炭ガス製造設備は94年に停止している。つまり、主役であった石炭が舞台から退場し、再生可能エネルギーが鍵を握り始めているという、エネルギーをめぐる壮大なドラマが続く土地と表現することもできる。
ちなみに俯瞰すれば、正蓮寺川の対岸にはユニバーサルスタジオ・ジャパンがあり、川を下ってゆくと、夢洲すなわち2025年万博の会場に至る。東に寄った京セラドームもガスタンクのある大阪ガスの主幹施設だったので、これらかつて周縁にあった場所が大阪のこれからを指し示す象徴となってきた。それが研究所であろうとアミューズメントパークであろうと、共通しているのは、これまで出会うことのなかった同士を結び付けるマグネットである。そこでの出会いがエネルギー転換といったテーマを加速させる。
ここに生まれる建築には、新しい技術に適合した、先進性の表現や地域創成のプロトタイプづくりが期待されるだろう。ベルリンのまち外れに1909年に竣工したAEGタービン工場(設計:ペーター・ベーレンス、今も健在)は先行する好例で、時代のイメージを切り出しながら、着実な都市風景を導いた。やがてその建築理念は20世紀の建築の基盤になる。酉島周辺での解が21世紀を引っ張るかどうかを見届けたい。