建築から学ぶこと

2019/12/04

No. 699

新たな萌芽―BIMコンペの手ごたえ

以前(第693回)で紹介した<マロニエBIM設計コンペ>は計画通り実施され、59の作品から優秀案10点を選出し、そこから最優秀案1点が決まった。制限72時間内で提案を作成し、ネット経由で全国から59作品が集まる。最後にそのデータを使ったビデオクリップを見ながらの公開審査というプロセスはなかなか意欲的だと思う。栃木県建築士事務所協会がこれを運営するのはひと苦労であったけれど、コンペ対象敷地が宇都宮なので、十分に当地のアピールもできている。このコンペの作品と運営の質なら、さらに応募範囲は広がってゆくだろう。
学生向けだったこのコンペは、第6回となった今年から実務者に参加枠を広げているので、最終日には、それぞれからの5点が並ぶことになった。BIM普及促進の動きのなかでは、多様な立場の創意ある取り組みは重要である。最優秀案をつくったのは実務者の阿部仁祐さんで、粘土モデルを3Dスキャンして形を選びだしながら、画面の中で確実に空間を組み立てていった。彼はこれを「ひとり社会参加」と呼んでいて、全体的に人間らしさが伝わってくるBIMソリューションになっている。こんなふうにBIMの使い方も、扱う層も柔らかく広がってゆくといいなと思わせる。
なおこのBIMコンペはいまのところアイディアの提案に留まる。しかし、BIMが社会標準となる時代にあるべきコンペのスタイルとは、このようなネット経由なのかもしれない。国際コンペもこれならうまくこなせるだろう。時間制限をかけたり、著作権を大切にしたり、動画で空間を確認したりする運営ルールには、そのためのいろいろなヒントが潜んでいた。設計から維持管理に至るサイクルでイメージしてきた普及に、公共調達改革というターゲットを加えることもできそうである。

 

※審査と運営には、池田靖史、石澤宰、ヨコミゾマコト氏と、佐野(今年から共催となった日本建築士事務所協会連合会の委員)が加わっている。

佐野吉彦

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