建築から学ぶこと

2015/10/28

No. 496

それを生みだした背景について考える

今年の建築士法改正には、適切に建築生産プロセスを構築する趣旨があった。建築士法を正しく適用する観点から、設計者の義務だけでなく発注者の努力義務も定められているが、改正は消費者保護の充実の流れにも沿うものでもある。さらに、建築の生産プロセスとは必然的に多くの専門家を起用し、技術を統合するものである以上、それぞれの持ち場での責任を全うすべき、という趣旨も含まれる。以上のことを考えると、建築に何らかの事故や瑕疵が生じた時には、プロセスに関わる者すべてが自己の責任を明らかにしなければならないということになる。

今回の横浜のマンションにおける不適切施工・データ改ざんの一件は、個人や専門工事業に直接原因があったとしても、それを看過した監理者と施工者の責任は問われる。設計者についても、図面にどのような記述をしたのだろうか。日本建設業連合会は、山内副会長・建築本部長名で「請負契約を元請けとして締結した以上、重層構造は問題ではない。一義的にはすべて元請けの責任だ」と述べており(建設通信新聞2015.10.23)、解明を待ちたいところである。現在、発注者が弁済の考えを示しているのは、企業と商品の価値を守るための表明であって、かれらに今回の責めがあるとは言い切れない。発注者からの工期とコストに関わる要求の厳しさが影響したとする報道があるが、それらの要求は何らモラルにも法律にも抵触するものではない。ましてそうした点に厳しくない暢気な発注者などいないだろう(以上は10月24日時点の情報に基づく)。

基本的に、建築生産プロセスは、専門家それぞれが技術を磨く向上心を持ち、プロ同士が信頼しあう基盤が形成されていてこそ、確実なスタートができる。それゆえに、発注者と設計者・施工者などで交わされる様々な契約があいまいなものであったり、ひとりの専門技術者として遇する姿勢が欠けていたりすれば、事故や瑕疵を生むリスクは高まる。もし人間どうしのつながりの希薄さと、技術者の尊厳の弱体化が、事件の背景にあるのなら悲しいことである。

佐野吉彦

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