2023/05/31
No. 870
日本での建築の専門教育課程は、建築の各技術分野をカバーできるよう、カリキュラムが構成されている。もちろん、建築士資格を得るために必要な修業項目と位置付けられており、2006年以降の建築士法改正を経て、資格と各分野とのつながりはより緻密になってきている。とは言え、ホリスティックな(総括・統合的な)専門人材育成の精神は貫かれている。それはこの国の建築教育が積み上げてきた方向性であり、社会も志願者もそう認識しているだろう。結果として、構造について深い理解を持つ建築史研究者、環境技術を熟知し、プロセスマネジメントができる設計者など、厚みのある人材が育っている。建築学科の卒業生がいろいろな持ち場で活躍することによって、社会の変革に役立っていると言える。
だからこそ、これから先に有為な人材を育てるための提言をしてみたい。ひとつはBIM教育で、それを通して実現する建築データの統合という経験を、ホリスティックな教育の中でもっと活用してほしいというものである。専門家のチームワークを進めるBIMなら実社会ですでに運用されているが、デザインとエンジニアリングを個人で統合する作業を専門課程にいる間に実践させておくべきである。それを支える各研究分野は学内に揃っているはずだから、連携して指導はできる。学生から見ても、BIMを製図技術として学ぶより興味を感じるのではないか。
もうひとつは生成AIの時代における「有効なプロンプト」を示せる人材を育てることである。ホリスティックな建築教育は、これからの局面でリーダーシップを取れる視野と意思を鍛えるはずである。世の中は、自動化するとクリエイティブな仕事がなくなるのではないかと勝手なことを言うものだが、事実のはずはない。教育側も実務側も、そうした確信とともに人を育てることが重要である。