建築から学ぶこと

2012/03/07

No. 316

災害に向きあうために、これから (上)

東京に大雪が降った日、予想どおり、交通は多少混乱した。翌々日、多摩丘陵にある学校に出かける機会があったので、雪の日は大変だったでしょうね、とそこの先生に問いかけた。積雪は15センチだったようだが、結局休校にしましたという答。べつに学校の建築が積雪で危険が生じたのではなく、ほぼそれは交通の混乱に起因していたのだった。交通事業者も利用者も十分な対処ができなかった。雪国ならその程度で日常のパターンは崩れないであろうから、都会というシステムとは非常時に脆弱なものである。首都圏直下型地震や東南海地震が襲って生じるリスクとは、堅牢性の問題以上に、こあたりの対応力の問題が大きいかもしれない。

人が集中してしまっている状況のなかでは、避難広場の充実、津波避難ビルといったインフラ整備方策で「上から」手を差し伸べるには限界がある。それらの方策が個人や身近にある集団が、自律的に工夫をしてリスク回避することで、凌げることはいくらでもある。減災の道は、「上と下から」取り組むべきものだろう。企業にとっては、事業拠点の設定や災害対策ルールや勤務形態、地域にとっては日常から使いこなしておくべき公共空間や連携体制といったソフトなインフラ構築が効を奏するはずである。

3月1日に大阪市中央公会堂で開催された「防災フォーラム−震災に備える 大切な人を守るために−(*)は、それに先だって募集された「震災に備えるアイデア募集」の優秀作表彰と、審査員によるシンポジウムが開かれた。河田惠昭・喜多俊之・坂茂・中村桂子の各氏が語ったなかで重要なのは、皆が日常からバランスのとれた社会をつくるためにマジメに考えておくべきことであった。まさに同じ文脈である(本件、次号でも言及したい)。

災害は必ず訪れているはずなのに、実際に直面してみると、冷静な対処ができにくいわれわれ。まもなく3月11日、にわか仕立ての思想に振り回され気味であった1年が過ぎようとしている。

(*)主催: 大阪府建築士会・大阪府建築士事務所協会・日本建築家協会近畿支部・日本建築協会

佐野吉彦

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