建築から学ぶこと

2006/05/10

No. 32

起こっていることがどこも同じなのは?

ニューヨーク近代美術館(MOMA)で5月1日まで開催されていたOn Site展は、現代スペインの建築動向を俯瞰するものだ。スペインの俊才たちにクールハースやヌーヴェル、伊東豊雄やSANAAたちを加えた面々の仕事は、たしかにスペインの伝統路線にうまく接続できている。一方で、彼らの持つデザインアプローチは世界各地で似たようなかたちで試みられていることに思いが及ぶ。このデザインはアジアのどこかの都市の建築でも可能なのではないか?

どの場所でも同じように、風土に畏敬の念をこめてデザインをまとめ、変化する時代の要素を取り入れることで硬直したモダニズムをしなやかに融解しようとしている。世界の建築家も、発注する側もそういった知恵をお互い「借りあっている」ようなのだ。こうした動きは雑誌やウェブを通して生まれ、その伝達スピードはますますテンポアップしている。おそらく、いまもどこかの建築家がウェブサイトで(On Site)このカーテンウォールはどういうディテールなのか?などとOn Site展の中身を読み解いているに違いない。

とは言え、知恵の交流は今に始まったことではない。オランダの建築家ドュドック(1884-1974)は、ライト(1867-1959)の作品に触れたことで、彼が根ざす地域における(On Site)デザインスタイルを掘り起こした(ヒルバーサムの庁舎など)。同じオランダにおけるデ・ステイル(1917創設)の取り組みは、バウハウス(1919創設)がバトンを受けてモダニズム運動の推進母胎となった。さらにこの動きはバウハウス叢書などを通じて、日本における山田守、石本喜久治、そして安井武雄らの戦前の仕事に流れ込んでいる

それでは、建築家にはオリジナルなアイディアは生み出せないのだろうか?いや、彼らが異なる知恵を借りようと試みているときは、あきらかにその地域や建築主が新しい時代のかたちを呼び求めているときなのだ。彼らは決してアイディアの移植をおこなっているわけではなく、時代の予兆を必死に嗅ぎとろうとしているからそうなる。デザインスタイルは一見似てしまうが、できばえの良し悪しは建築家の力量次第なのも事実である。

佐野吉彦

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