建築から学ぶこと

2015/09/09

No. 489

湖国の知恵はのびやかに

琵琶湖は日本最大の湖にして近畿の水がめ、そしてのびやかな環境装置である。急峻な湖岸があまりないことから、接する汀が総じて人の手が加わった景観になっている。近江の風土は、琵琶湖という装置をうまく活用しながら時間をかけて形成された。人と自然が上手に協力してつくった風光明媚な景色、そのキーワードがよく知られた「近江八景」である。戦後に選定された新しい「琵琶湖八景」も含めれば、つねに当地の人々の眼は湖に向いていたことがわかる。

一方で、古来、近江の国には行き交う人の姿が絶えたことがない。この地で東海道と中山道が合流し、北国街道が分岐する。交通は至便である。それゆえ、戦国大名が通商に適したこの地をめぐって雌雄を決するなどした。明治以降には、東から長浜、西から大津へと鉄路がたどりつき、水上交通が結ぶ両港は交易の地として栄えた。そのように横切ってゆく人の動きも、より多くの人々に八景の美しさを認識させることになった。だが、そのような足跡は琵琶湖のバランスを絶えず揺さぶる。戦時中からしばらくのあいだ、琵琶湖につながる内湖の干拓が各地で進み、生態系のバランスが大きく崩れていったと言われる。今日ある、琵琶湖の環境を健全に保とうとする自律的な努力は、その時期の反省の上に立っていると思う。

いま、湖上の船から陸地を眺めると、大津から湖西に続く岸辺には高層住宅群が並ぶ。これを逆に小高い丘から望み返せば、湖面への視野と風の流れを塞ぎかねない。何とかこれをうまく整えたいものだ。琵琶湖をめぐって人と自然が協調してきた景観形成の意味は次の世代に引き継ぐべきだからである。たとえば、大津市や滋賀県は、高層建築の面を横に広げず、湖面と山並みの隙を空けようとする手立てなどで、景観をのびやかに調停しようと考える。シンプルで普遍性のある取り組みだ。

 

びわ湖大津館

佐野吉彦

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