建築から学ぶこと

2022/04/27

No. 817

そこにある志 ―日本建築学会賞の成果から―

先ごろ2022年の日本建築学会賞が発表された。部門ごとの委員がうまく代替わりしながら選考の責任を担っているので、学会賞全体の傾向は急変化しないものだが、目に留まったところがいくつかある。まず、作品部門の3点はバランスが良い。「太田市美術館・図書館」は地方都市の駅前に、熱量ある造型を埋め込んでみせた。「長野県立美術館」は既存の風景に寄り添いながら、環境の質を静かに高めている。もう1点が保存再生プロジェクトであるところは昨年の「京都市美術館」と同じで、今年の「旧富岡製糸場西置繭所」でも、繊細な成果が評価されている。こうしたアプローチに注目が集まる流れが生まれているかもしれない。

昨年は東日本大震災から10年であったことから、業績部門の中には復旧復興の着実な取組みが挙がっていた。今年の同部門には、「一般社団法人住宅遺産トラスト」や「西山卯三記念すまい・まちづくり文庫」といった名があり、過去に生み出された濃密な時間を未来に引き継ぐ努力の重要さを指摘している印象がある。著作部門(著作賞)のうちの一冊「平成都市計画史転換期の30年間が残したもの・受け継ぐもの」も、同じような視点に立つ振り返りである。これらの部門と教育貢献部門の受賞リストを眺めていると、将来に向けての社会基盤づくりを手掛けた取組みが目につく。そこに光を当てたのは、いまの建築界全体が、自らが重要な節目にいることを認識しているからではないか。

今回は、太田佳代子さんが日本建築学会文化賞のひとりに選出されている。太田さんとは1990年代のくまもとアートポリスの草創期に協働したことがあるが、その後の世界各地での活動は目覚ましい。太田さんが結んだ縁や起こした波を日本の建築界がきちんと評価した意味はとても重要である。

佐野吉彦

咲いた花は、やがて実を結ぶ。

アーカイブ

2024年

2023年

2022年

2021年

2020年

2019年

2018年

2017年

2016年

2015年

2014年

2013年

2012年

2011年

2010年

2009年

2008年

2007年

2006年

2005年

お問い合わせ

ご相談などにつきましては、以下よりお問い合わせください。