2012/11/14
No. 350
秋の晴れた午後、サントリー府中スポーツセンターの増築・改修のお披露目がおこなわれた。ここはつまり、ラグビー・トップリーグの常勝チーム、サントリー・サンゴリアスのクラブハウス。この日が普通の竣工イヴェントとちがうのは、懇親会に先だっておこなわれたトヨタ・ヴェルブリッツとの練習試合を楽しむ機会が用意されていたことである。双方のチームにとっては、シーズン中の待ったなしの課題を掘り下げる重要な機会なのだが、見ている側には、きらきらとまぶしい芝生の上を縦横無尽に動く楕円の球とプレイヤーを穏やかに見守るひとときとなる。
この建築が最初に姿を整えたのは1993年。時代の経過のなかで積極的な取り組みがあり、チームはたくましくなっていった。優秀な素材だけでなく、それを支え鍛えるコーチング・トレーニングシステムの質が充実したことで、基盤がしっかりしたのである。たしかに、フィットネスのためのスペースが充実することと、アスリートとしての意識が高まることとは、比例している。今回の取り組みとは、そうした積み上げの延長線上にあるものだ。つまるところ建築は、機能面の課題を解決する器というよりも、一つ上の段階を目指して心身を成長させるための「契機」としてある。
選手はやがて選手生命を終え、社会のなかでビジネスの力を問われる時期が来る(もっともサントリー社員である選手についてはすでに両方をこなしてきているのだが)。それも含めて、ロングランの人材育成のために使われている建築は、大いに幸せ者である。かくて建築もチームも(そして、設計者も)まっすぐにその使命を変えることなく歩み続けてきた。つまり、この建築と関わり続けた20年とは、次の歩みを用意した20年だった。というわけでこの日のビールはなかなかうまい。