建築から学ぶこと

2007/03/07

No. 73

美しい中之島、立ち現れる船場

「美しい景観」とは、水と緑と高さ制限を揃えれば自動的に成立するものではない。「文化的景観」がそこに備わっているべきだろう。その地に住む人・訪れる人が景観の持つ「意味」を共有できていることが、美しさの底を支える。そのためには、行政・住民による丹念な協働作業が欠かせないのである。近江八幡市の風景づくり条例、国分寺市のまちづくり条例のように手間をかけたルールは、長持ちするものだろう。条例そのものではないけれども、全焼した法善寺横丁の建築群の再建に連坦建築物設計制度をすみやかに適用した例は、この地区の街並みを継承する目標が店舗の人々に共有され、それが行政を動かしたものと言える。

一方で、これらの事例以上の広域にわたる景観コントロールは、合意形成が難しい。細部のコントロールを目指すことに意味があるのだから、都道府県単位、大都市単位での景観ルールづくりなど、事情の異なる地域を包括するルールは無理が生じる。美しい景観づくりに必要なのは、選挙公約のような威勢の良いメッセージより、手間と時間をかけてひとつひとつ結果を出してゆく努力である。

さて先日、大阪でシンポジウム<美しい大阪、美しい中之島>が開催された。中之島は約50ha、いい大きさの島である。ここを大阪の顔として魅力ある場所に育てようというねらいなのだが、現状の中之島は居住人口が少なく、住民の発意は起こりにくい。となると大阪市民が中之島の意味をきちんと共有した上で、行政・企業を含む中之島のステークホルダーが腹を割って景観を考えてゆくべきであろう。

一方、かつて掘割に囲われていた船場地区はいわば大阪の歴史的コアである。現在開催中の<大阪・アート・カレイドスコープ2007>は、船場を筆頭にして散在する近代建築の名作にスポットを当て、ここをアーティストの「表現の舞台」と見立てたものである。アートを巡覧・経験することにより、本来の大阪に備わっていた都市システムを身体で感じとる企画でもある。ここでは、普段は感じ取りにくい価値の発見にアーティストの持つ新鮮な視点が一役買っている。

佐野吉彦

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