建築から学ぶこと

2013/10/16

No. 396

教え導くのは誰か

静岡に竣工した新しいビルは、駿府城址正面と向きあう位置にある。ここは外濠を挟んだ城址側には県庁が居を構え、手前側には警察署や市役所が並ぶという「官の枢要」の地。その道端に人の身長ほどの「教導石」という名の碑があり、傍らの説明板にその由来が書かれていた。石碑には「富や知識の有無、身分の垣根を越えて互いに助け合う社会を目指す」趣旨から明治19年(1886)に設けられたとある。上部に主要地点への里程情報が刻まれた教導石は、右側の平滑な面が「尋ル方」と名付けられ、分からないことがあれば誰でもここに貼り紙をして質問して良いことになっている。左面の「教ル方」は、その答えを知っている人が自由に回答を貼りつける面となる。

明治の初めは、知識体系の組み立て直しの季節である。官も民も諸事不明な点が多々あったに違いない。横にいた設計担当のT君は「これはYAHOO! 知恵袋」ですね、と表現したが、上意下達ではなく、社会に所属する同士で知恵を探ったところは極めて現代的である。同様の例が静岡の他にあったのかは知らないが、市民社会を支える教養の基盤づくりにつながる試みであったと言えるだろう。

ところで、建築分野の質の充実において静岡がきっかけとなったものがある。ひとつは静岡駅前地下街爆発事故(1980)を教訓とした消防法改正とガス安全対策推進。現在ある安全な地下街づくりはここから始まった。もうひとつは災害への意識の高い静岡(と神奈川)から始まった応急危険度判定士制度(1992.現在は全国制度)である。 ここでの官民連携の知恵は、その後の災害時に有効に機能した。

静岡の経験は、官と民が公共性の高い建築などの社会資本づくりにおいて、どのような協力プロセスを形づくればよいかについて示唆を与える。法律が誘導するのか、政治が適切な判断を下すのか、それとも、ひとりひとりが責任を持つのか。

佐野吉彦

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