建築から学ぶこと

2012/01/25

No. 311

1月17日を越えてゆく

阪神淡路大震災から17年目にあたる1月17日、旧知の藤本貴也さんに講演をお願いした(大阪府建築士事務所協会にて)。土木の技術系官僚を経て、現在建設コンサルタンツ協会の副会長を務める藤本さん。国土交通省近畿地方整備局長時代に大水害や耐震偽装の問題や鉄道事故と向きあうなど、危機管理については豊富な経験と知見を有する人である。この日の講演「日本の危機管理を考える」では、特に東日本大震災そのものの特性、発災直後の初動の検証、今後の技術的課題に加え、自治体がどう役割分担すべきかについても言及があった。最近のように、国・中間自治体(都道府県)・基礎自治体(市町村)の再編がかまびすしい局面にあっては、災害時に有効に機能するためのフレームを再定義することは重要なポイントとなっている。

これらの話をふまえて考えるべきことのひとつは、まず誰もが災害に対する想像力を失わないよう底辺を広げることである。呑気に誰かに判断を委ねてしまうことは結局わが身を危険にさらすことにつながるからだ。もうひとつは、技術者自身がさらに骨太な設計思想を開発することである。現今の災害実態から多くを学びつつ、建築と土木とのあいだのリスク判断の差も乗り越えてゆかねばならない。それは法律の強化を意味するものではない。今こそ、自立した思想を構築すべきなのである。

さて、このような異なる分野の思想と情報の重ね合わせは、ものごとを適切な解決に導く知を生み出す可能性がある。私はそこに着目してみたのだが、そのような意図に響きあう語り手として藤本さんは最適であった。ところで私はその週、大阪・番画廊で開催の「山本浩二展」に出かけた。内田樹邸の能舞台の壁に老松を描いた作品も出展されているが、山本さんこそ異なる視点の重ね合わせに意欲的なアーティストと言えた(内田さんもまた、そういう人なのである)。そのときの私はさまざまな思想が撚りあわさる彼の闊達な線に、時代を動かす弾みが感じていた。

佐野吉彦

アーカイブ

2024年

2023年

2022年

2021年

2020年

2019年

2018年

2017年

2016年

2015年

2014年

2013年

2012年

2011年

2010年

2009年

2008年

2007年

2006年

2005年

お問い合わせ

ご相談などにつきましては、以下よりお問い合わせください。