2015/12/16
No. 503
先日、岸本忠三・大阪大学名誉教授 と本庶佑・京都大学名誉教授の2人が登壇した講演を聴く機会があった。それぞれの功績は、免疫難病治療やがん治療の基礎研究で自ら発見した分子から特効薬を作ることに成功した、すなわち基礎研究が創薬までつなげた、世界でも稀な例と言えるようだ。
岸本教授は、抗体産生細胞について研究を重ね、大阪大学の細胞生体工学センターでリーダーシップをとり、自らが発見したIL-6分子が、多くの疾患の発症に関与していることを解明するに至った。IL-6の抗体<アクテムラ>を疾患の治療に応用し、リウマチを始め多くの難病に苦しむ世界中の人々を救う効果につなげたというわけである。ちなみに、抗体素の発見が1890年で、抗体工学技術の確立が1986年、抗体医薬の発売が2001年という、時の流れがある。
一方、免疫制御する遺伝子を解明してきた本庶教授は、免疫力を活性化すればがん治療が可能であることを発見し、PD-1抗体ががん治療薬として承認されるために尽力した。本庶教授の視点は、ほかの療法がいわばアクセルを踏み込むやりかたであるのとは逆で、PD-1が免疫反応のブレーキになっていることに着目し、こうしたブレーキを効かなくする、抑制法であるのだという。PD-1抗体治療はすべてのがん腫、あらゆるステージに有効であるが、1992年のPD-1分子発見が、2015年には日本では皮膚がんのための治療薬の承認というところまできた。
講演のあとのトークでは、岸本教授は、明治以降の日本が大学の基礎研究を重視したことが日本を発展させ、ノーベル賞受賞者を輩出する成果を生んだとする。役に立つ研究であったというのは、長年取り組んだ結果であって、役に立つことを目指してきたわけではない、とも語っていた(なるほど)。本庶教授によれば、特にライフサイエンスでは最初に成果が見通しにくいので、いろいろな可能性を試すことが非常に重要だという(たぶん、建築分野も同じだ)。それゆえに、大学にはすぐに結果を求めるのではなく、長期的視点による投資、政府や企業による基礎研究へのバックアップがほしいと述べていた(だから、優秀なリーダーを見出し、そこに賭けることは妥当な判断なのである)。