建築から学ぶこと

2021/10/27

No. 792

豊かな手ごたえー香山さんの展覧会から

20年前に、あるアイディアコンペの審査員を務めたとき、香山壽夫さんがその審査委員長だった。相反する趣向から何を選ぶかで議論が活気づくなか、何らの偏りなく、上手なさばきをしておられた。今も毎年開催されるそのコンペは、当時スタートから20年ほど経っており、形態の明瞭さよりメディア的な傾向が次第に高まってきていた。香山さんは、それらの台頭も認めながらも、建築はプライマリーな美しさが大事なんだけどね、と語っておられたことを記憶している(*1)。その香山さんの<手の痕跡>を総攬する展覧会「香山壽夫ドローイング展」が先ごろ開催された(*2)。会場は明瞭な、プライマリーなレイアウトになっており、全体として居住まいの正しさが感じられ、香山さんのありようが伝わってくる。

展示は、ドローイングやスケッチを通して建築家の想像力と思考をたどるものである。設計の過程にある情報の出入り・相互の反応・豊かな成果に向きあえるのは楽しい。さて、建築設計には、制作に必要なデータを整え、協働者とそれを共有する任務がある一方で、そこにこめられるメッセージをいかに的確にていねいに伝える努力も、任務に含まれる。そうした建築設計の基本型について、香山さんは展示を通じて語ろうとしていたのだろうか。設計着手から竣工に至るまでのどの段階にも香山さんの姿は存在するが、同時に語りかける相手の存在も感じ取れるのは重要なところだ。

会期中に会場で行われた香山さんによるトークでは、多少ずれのある質問にも丁寧に応答していて、むしろそのずれからいろいろな発見をしているところは面白かった。それは長く教鞭を取った経験に由来するものでもあるが、こうした懐の大きさは香山さんの魅力である。

 

*1 余談ながら、当時の資料を調べてみたら、まだ学生だった中村拓志さんの美しい案が入賞していた。審査員は慧眼だったと自負する。

*2 2021.10.15-24、建築家会館。主催はNPO法人建築文化継承機構(JIA-KIT建築アーカイブス:日本建築家協会と金沢工業大学の連携のもとに設立されたNPO)。

佐野吉彦

美しいレイアウト。

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