建築から学ぶこと

2012/09/19

No. 342

オフィスにおける、素敵な場所

海外に出向くと、設計事務所を訪ねる機会が多い。現実の仕事の打ち合わせであろうとなかろうと、同じプロフェッションに属する同士は心からくつろげるものである。かれらがどのような作品を手掛け、どのような運営をするかはもちろん興味深いが、その街を建築家の眼がどのように捉え・感じ取っているかを知るのが面白い。先日訪ねたアジアの都市では、植民地時代の建築遺産のガイドブックを建築家から頂戴した。なるほど、これは街が誇るべき文化財の一覧であるとともに、いろいろな活用可能性を示唆するテクストであった。そこに関心が向いているのだ。アメリカの事務所では、一見単純なグリッド構成の都市を、近代建築遺産を手掛かりに再活性化を図る計画をよく眼にする。いずれ、このアジアの都市でも同じようなトライアルがおこなわれる段階に移ってゆくであろう。

というわけで、そのように私が経験する面白さは、「お返しをしたい」と考える。そこで、われわれの事務所の来客には、相手が建築家かどうかにかかわらず、都市の歴史についての話題をとりあげることにしている。大阪事務所で迎えるなら、ここに古い金属製ドアの一部などが展示してあるので、そこで立ち話をするのがわかりやすい。

さて、8月は学生インターンを多く受け入れる月であり、昨年から始めたオープンハウス「こども参観日」、すなわち社員の子弟を迎える一日を開催する。稀なる客であるかれらにとって、その時間が印象的であるようプログラムは緻密につくっておく。たとえば前者では「建築主」の存在も意識させるようにし、また、各人の成果発表会は受け入れ担当グループだけでなく、社内で広く聞けるようにする。後者ではことし、稲垣雅子さん(フォーリッジクラブ代表)の協力を得て、親子が協力してものづくりの一部を経験するプログラム・「木工細工(千鳥格子)制作」に取り組んでもらった。

出向く側と迎える側の双方が手応えを感じてこそ、出会いと呼べる。設計事務所における接客スペースは人と人が出会い、知的生産の可能性をひらく素敵な場である。

佐野吉彦

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