2021/02/10
No. 757
測地学とは、地球の形や大きさを、座標系を用いて測定する学問である。測量技術については古代から研究が進み、それは数学の進化と併走していたし、さらに建築技術の基盤をつくったようにも感じる。一方で現代の測地学は、地球物理学や天文学とのつながりが一層深いようであり、詳しくは日本測地学会のサイトなどを参照いただきたい。この測地学が歩んできた道は、実はなかなかワクワクするものであることを、近刊の「教養の近代測地学―メフィストのマントをひろげて」(石原あえか著:法政大学出版局、2019)が思いがけず教えてくれた。著者については、経歴に<ゲーテと近代自然科学を主要研究テーマとする>とあるように、一見つながりが見えにくいところに線を繋げる研究者である。
この本では、ゲーテの人生のなかで、じつは18世紀の終盤のワイマールでの土木官僚経験が重要なもので、それを当地で進んでいた測地学の知見が支えていたことが紹介されている。ゲーテはこうした経験を大作「ファウスト」での領土づくりの描写に活かしているようだ。だが、文学者としての眼差しは、開発技術礼賛で終わるべきではないことを想像できていた。さすがゲーテである。この本は、ゲーテに限らず、人類が育んだ知恵がどのように自らの視野を広げたかを紐解き、さらにどのように掛けあわせるとバランスの良い未来が開けるかについて示唆を与えている。
ところで、19世紀ドイツで発展した測地学は、やがてグローバルな学問連携へと広がり、1899年には岩手県・水沢にも緯度観測所が設立された。その姿に関心を抱いたのが1896年生まれの宮沢賢治である。ワイマールでゲーテが科学と文学の共振を感じとったあと、少し遅れて花巻で賢治は、科学と文学が溶けあう世界を生み出す。そういう不思議な時空の結びつきについても、この本は踏み込んでいる。一見地味なテーマなのだが、なかなか骨太なドラマに仕上岩手県・水沢にも緯度観測所がっている。