建築から学ぶこと

2013/07/10

No. 383

受け継ぐなかの軽みと重み

どのような活動にも、先行してつくられたかたちとどう向き合うかというテーマがある。歌舞伎や能や浄瑠璃で言えば「無形の型」があり、舞台や衣裳のように「眼に見える形」もある。それをきちんと受け継ぐことは重要なのだろうが、それを契機としてどう新たな価値を見出すかはさらに重要であろう。そのようにして伝統芸能は活力を維持してきたからである。都市の衰退や所有者の事情がかかわってくる建築の場合、「建築というかたちは継承するが、そこで新しい活動をおこなう」ケースも、「建築をつくり直すが、そこでの活動を継続するか、記憶を継承する」というケースもある。総じて受け継いでゆくアクションとは多義的なもので、そのなかでさまざまな知恵を使わなければならない。

木琴・マリンバ奏者の通崎睦美さんは、平岡養一氏(1907-1981)から1935年製の木琴や楽譜などを譲り受けて活動している。平岡氏が活躍した第二次大戦前のニューヨークは、木琴演奏の全盛期であったという。現在の通崎さんは歴史的名器を活かし続けつつ、現代曲での可能性を広げ、同時に当時の熱い空気を蘇らせてもいる(ちなみに、インターナショナルスタイル/ロシア・アヴァンギャルドの時代である)。まさしく多義的だ。通崎さんは<平河町ミュージックス・第21回>にも登場いただいたが、この日はリコーダーの本村睦幸さんとともに、異なる木製楽器から生み出される多層な響きをつくりだしていた。

ところで通崎さんの著書「天使突抜367」は、京都にあるこの名前の地番にある古い民家をリニューアルした自邸建築プロセスの丹念な記録である。古材を手に入れ、細部にこだわる。アンティーク着物のコレクターでもある彼女は、歴史をいかに現代に重ねあわせ、さまざまな要素を組みあわせるかに関心を持っているようだ。好感が持てるのは、建築家をはじめとする専門家たちが適切に役割分担する姿に敬意を表しているところ。受け継ぐことのなかにある創造性を知る、得難い人だと思う。

佐野吉彦

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