建築から学ぶこと

2006/07/19

No. 42

沖縄を見る視角、沖縄を感じる触覚

沖縄にモノレール「ゆいレール」が誕生してもうすぐ3年となる。那覇空港にぴたりと接続した始発駅から、2両仕立ての小ぶりなモノレールが10分おきに滑り出してゆく。この地の鉄道は戦争で消滅した軽便鉄道以来の復活。その軽快さは、歴史を受け継いだかのようだ。12.9キロの路線は、2駅目の、新しい住宅地が広がる小禄駅からの乗客で賑わいを見せ、国場川をゆっくりと渡り、那覇中心市街地に入ってバスターミナルなど主要ポイントを繋いで終点の首里を目指す。沖縄のクルマ社会がこれで大転換することはないかもしれないが、すでに那覇の日常に根を下ろしていて、便利に使われてゆきそうである。

加えて、車窓に展開してゆく風景が私には興味深い。これまで見上げることの多かった那覇市街を高い位置から望むことができる。開放性の高い集合住宅や、汽水域を抱え込む、ゆったりとした空気。密実な建築群にからむ樹叢には力が充ちている。那覇の多面的なポートレートをここで鳥瞰することができるのだ。

さて、私が沖縄を初めて訪れたのは25年前のこと。そのときはまず、首里城中村家住宅(重文、18世紀中頃)、中城城跡や当時建設中の名護市庁舎を訪ねた。沖縄戦の記録本を携行していたので、糸満から摩文仁の丘まで歩いてみた日の終わりはさすがに気疲れしたことを記憶している。そのあと、八重山の島々をたどって西表島から与那国島へと船に揺られる。ここでの圧倒的な自然、聖域である御獄(うたき)や巨大な亀甲墓などは、予備知識がなかっただけに、強い印象を受けた。もともと沖縄建築の風土性や文化接触性を探るのだ、と勢い込んで出かけたのだが、人と自然とのあいだにある空気、それぞれの場所にある歴史の重層などには、現地でしか実感できないものがあった。

高層化する今日の那覇は、そのときとはずいぶん小奇麗に変化しているが、沖縄にしかない心地良い空気はやはり変わらない。とりわけ、沖縄で飲む泡盛は格別である。

佐野吉彦

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