建築から学ぶこと

2016/09/07

No. 538

ワークショップ、あるいは“気づき”の場。

学生の作品を講評する機会は新鮮で、面白い。建築を新たな視点から捉えるアイディアに出会うと大いに刺激を感じるものだ。こちらはそういう場に参加すると1日がポジティブになるのだけれど、その瞬間だけを見て評価してしまっていいものかとも思ったりする。人には、最初から才気煥発のタイプがある一方で、もう片方でゆっくり成長してゆくタイプもある。そのあたりを細やかに指導するのは、時間を共有している常勤の教員に委ねるべきである。いい師弟関係は、学生を着実にギアチェンジさせるだろう。でも、その日限りの出会いでの一言も大きなきっかけとなりうる。その効果も見逃せないものがある。
2001年から関西各地、歴史の香りの濃い場所を選んで開催してきた「建築学生ワークショップ」(主催:AAF)は、その両面の有効性を取り入れたシステムと言える。所属の異なる学生たちがいくつかのグループを編成して、年によって異なる場所でインスタレーション(あるいは、小さな建築)を制作し、それをプロフェッサー・アーキテクトたちが講評するスタイルだ。7月末にドローイング段階での評価があり、8月末に現地入りして集中制作し、その地で最終的な講評会が行われる。審査員はそれぞれのアイディアの進化を見守ることになるのだが、急な転換を遂げたチームには眼を輝かせたりする。
今年の制作会場は奈良県明日香村、キトラ古墳の隣接エリアだった。中間段階では協賛企業の若手・中堅技術者がアドバイザーとして学生と熱心に向きあい、フィニッシュの段階では地域の人々が多くの知恵をもたらす。審査員も煮詰まる学生たちにヒントを与えにかかる。総じて、人の巻き込みかたがうまいのがこのワークショップの特質で、結果として、関わったそれぞれにいろいろな「気づき」が生まれている。
審査員のひとりは、作品を見てこうコメントしていた。明日香村のコンテクストを意識するのはいいが、この古墳の近傍ではそのゲニウス・ロキ(地霊)をもっと感じとるべきではないか、と。現地でのそうしたライブなコトバのやり取りは、ネットを飛び交う皮相な議論を問いなおすことにつながっている。

佐野吉彦

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