2022/08/31
No. 833
建築学生ワークショップ宮島2022が今年も開催された。夏季にチーム(所属はばらばら)ごとにインスタレーションを現地制作・設置し、その場での審査を8月末ごろの一日を使って行うスタイル。今回の会場は厳島神社+近接する大聖院で、聖域を借り受ける形が今年も続いたことになる。東大寺、出雲大社などと同じ趣旨であり、若い世代の育成という点でも宗教法人の理解を得てきたのは特筆すべきことである。この流れの中での宮島という場は、聖域の構成や長い歴史の蓄積を読み取る必要に加え、自然の呼吸を感じ取る必要がある点で特別なものがある。実際に、水際に置かれた作品などは潮の干満の影響から逃れるのが難しい。逆に言えば、吹き抜ける風や存在感の大きい緑と水面は、作品を実現させるうえで背中を押す力となる。10のチームは、成功例である宮島の寺社に知恵を学びながら、さらに新たな解を探す旅に漕ぎ出したという次第だ。
ところで、宮島を結節点とする瀬戸内海という世界は、人文学的にも生態学的にも豊饒である。内海にある多様な特産品・産業が船便で結びつき、そこに北国や東アジアとの交易がかかわり、人が動く。潮の干満や海流や、実をつける島の森は個性豊かな海洋資源を育てた。それらが多様な文化の興隆につながってきたことは事実である。この宮島で学生と、世代と立場を異にする審査員が膝詰めで交わす議論と実践は、まさに瀬戸内海的なありようである。多角的な交流が人材を生みだす成果は、密な基盤づくりによって得られる。
一方で、作品がその場に在る時間は短いが、それぞれの制作経過にあった思考をどう活かしてゆくかも重要である。内海というコミュニティ、内海らしい限界のある生態系のなかで材料と知恵をどうリサイクル・展開するのか。この地にはこのようなテーマが潜んでいるのだが、場所を変えてこれからも続くワークショップ全体が、それぞれの地の課題と向きあい、地域や社会に向け、建築という手段を通じてどのような発信ができるのかも期待したい。