2013/05/29
No. 377
シンガポールという国は、2015年という建国50年の節目が近い。これまでリー・クアンユーの使命感と闘争心によって維持され、成功してきた<国家運営の方法論>はいまだ有効であっても、安定的な一党独裁政治は変曲点を迎えているようである。近刊の「物語 シンガポールの歴史」を読んでいると、現在のリー・シェンロンが率いる未来は、より多様性と柔軟性を意識した国家運営となることが想定されている。50年目とは、一般的に言っても、創設者が描いた組織イメージを社会との関係をふまえながら再構築するタイミングだと言えるだろう。
というわけで、今週も50周年にちなむ週。5月25日、東大阪市にある近畿大学理工学部建築学科(2011年度から建築学部)の記念行事にゲストとして招かれた。さすがに総合大学は卒業生のネットワークが広く、地域や東日本大震災の被災地との関わりかたの密度が濃い。この日のプログラムでは、現役教員が企画・審査した<記念デザインコンペ>の表彰が好感を持ったが、建築学科の取り組みを卒業生たちがあたたかく支えてきた道程もなかなかいい。同窓組織を取り仕切っているのは、私の知人でもある西邦弘さんで、スピーチの中で<現役学生と卒業生たちとが出会う場の運営>をこのところ推進している経緯に触れていた。進路アドバイスを兼ねてOB・OGが後輩を刺激する機会は、卒業生が時間をかけて蓄積したからこそ可能になったもので、結果的に学科の人材育成の後方支援となるだろう。適切な連携だ。
歴史とは積み重ねつつ変革すべきものというなら、50年の節目での日本初の建築学部開設は重要な学内改革であった。次の50年は、卒業生のフィードバックを感じ取りながらその中身を充実させるステージとなるにちがいない。