建築から学ぶこと

2016/08/03

No. 534

展覧会で知る、人間のおもしろさ

東京国立近代美術館で「声ノマ 全身詩人、吉増剛造展」が開催されている(8月7日まで)。美術館における、文学者をテーマとした企画は珍しい。普通、文字というアウトプットだけでは、美術館の展示として見ごたえあるものにならないからである。ところが、今回の展示空間は美しさにあふれている。実際の吉増さんの詩人としての行動領域はとてつもなく広く深いもので、詩作(思索)の記録である手帖、語りを収めたテープ、絵画作品、徹底して二重露光にこだわった写真など、それぞれの膨大な成果は、ほとんど収拾がつかないくらいである。それらをきれいにまとめあげた保坂健二朗さん(主任研究員)はなかなかの力量だ。この場に立つとき、詩人という「生き物」がどのような視野を有し、どこに情熱を傾ける存在なのかが理解できる。たとえば、二重露光に見られるように、詩人は眼前にあるもののなかに異なるものを透視している。絵筆を取るときと、誌を書き付けるときの筆圧は違っても、一瞬の揺らぎを見逃さない緊張感も見ものだ。文字を含めて全てが表現なのである。今回は、そういう、当たり前のことに出会えるとても「親切な」機会なので、特に吉増さんという人を知っていてもいなくても、好きであろうとなかろうとかまわない。
そう言えばこの時期に森美術館では「宇宙と芸術展」が開催中である(2017年1月9日まで)。こちらは、宇宙にかかわるテクノロジーが美術館に侵攻した点で、普段にない試みである。興味深いのは、迎え撃つアーティストの想像力の中で宇宙というイメージが果てしなく膨らむと思いきや、どの時代の作家も、スケールさえ不明な巨大イメージをストイックな姿勢で位置づけ切り取りなおす作業をおこなっている。静謐な空間の中で格闘している詩人とは逆に、開放的な展示の中で、作家たちは瞑想している。ここではアーティストや、あるいは人類の一途な側面を観察するのが面白い。

佐野吉彦

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