2011/09/14
No. 294
六甲山から流れ出す住吉川は扇状地の上を緩やかに流れ、大阪湾に注いでいる。正確に言えば、住吉川は大きな扇状地を形成するほどの潜在的な力を有する川だ。その右岸にある私立<甲南小学校・甲南幼稚園>はこの9月で100周年を迎えた。創立者平生釟三郎がかたちづくろうとした「徳育・体育・知育」の校風が穏やかに継承されているとみることができる。しかしながら、この歳月のなかで神戸の穏やかな風景は何度も攪乱されてきた。ひとつが「細雪」にも登場する1938年の阪神大水害であり、山津波が校舎を飲みこみ死者を出した。平生はこの苦難からの再建を「常ニ備ヘヨ」というメッセージで導き、教育理念のなかに重要な意味をこめた。この警句は、苦境を乗り切るときに、きわめて効果的で持続性のあるものとなった。
その後、再建した校舎は戦災で焼失する。それは1945年3月に神戸の過半を焼いた神戸大空襲ではなく、広島原爆と同じ8月6日の空襲による。まさに終戦間際になって、焼失を免れていた西宮から御影までが焼け落ちた日の災いである。このときは、川下へ歩いて数分の、被害を免れた灘中学校(高校)校舎を借りて教育が続けられた(それもあって甲南と灘は善き隣人なのである)。その50年後の阪神大震災のおりは、被害を受けながらも灘とともに避難所としての機能を果たしている。この学園は「常ニ備ヘヨ」の精神を試され続けて100年を迎えたと言えようか。
ところで、古い写真を見ると、これだけの被害や、それに「備える」建替えがなされても、キャンパスの各棟の位置が大きく変化していない。学園の理念を、建築を介して受け渡してゆこうという視点が安定しているのであろう。夭折した建築も含めて、100年を支えたのは建築の力も欠かせない。
追記 UIA2011東京大会(第24回世界建築会議 9/25-10/1)、いよいよ開催目前。この時代にふさわしい、効果的なメッセージが生み出せる大会とすべく、準備に忙しい日々。何が起こるか/起こったかは、この連載でも紹介します。