建築から学ぶこと

2023/01/25

No. 853

白州で芽吹き、花開いたもの

アートキャンプ白州(のちにダンス白州など、名前が動いた)は、1990年代から2010年までの夏を中心に、山梨県白州町(のちに北杜市)で開催されていたアートフェスティバルである。アートを切り口にして、地域に新たな光を差し掛けた取組みで、私も関心を抱いて訪ねた折の色鮮やかな印象が残っている。多様な分野のアーティストを束ねていたのは木幡和枝さん、舞踏家として白州に拠点を置いていた田中泯さんで、建築からは樋口裕康さんが活動に加わるなど、都会ではできない何かを探っていた。ここでは、日本の国土計画策定のキーマンであった下河辺淳さんも、静かに重要な役割を果たしていた。彼だけは次の時代の国土形成のありかたを見つめていたのかもしれない。
その後こうした農村をテーマとする試みは北川フラムさんが推進することになるのだが、北川さんの活動の舞台のひとつの市原湖畔美術館で、<試展―白州模写 「アートキャンプ白州」とは何だったのか>と題した回顧展が先ごろ開かれていた。私は、木幡和枝さんが2000年に東京藝大先端芸術表現科の教授となってからご縁が生まれている。この学科の拠点は茨城県取手市にあり、それもあって木幡さんは農村から郊外に関心を動かし、取手アートプロジェクトの草創期に立ち会うことになった。いつしか私はそのアートプロジェクトに色濃くかかわることになったから、白州は私を招き寄せた場所のように感じている。もちろん、私よりはるかに白州の磁力に引き寄せられた人はいるだろうが。
それとともに、私は同じ白州にあるサントリー白州蒸溜所とも30年を越えるおつきあいがあり、ここでの工事の節目には必ず立ち会って、いろいろな季節を経験し、鳥のさえずりに包まれてきた。蒸溜所は切れ味の良いウィスキーを成熟させる地として重みを獲得するようになっているが、この地は、きっと万物を発酵させる何かが潜んでいるに違いない。

佐野吉彦

再評価に値する試み。

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