建築から学ぶこと

2020/12/16

No. 750

人を揺り動かす彫刻

「バシェ音響彫刻」展の会場は、キラキラと、そしてつやつや輝いている。そこにある彫刻群もしくは楽器群は、ベルナール(1917-2015)とフランソワ(1920-2014)のバシェ兄弟が1970年大阪万博のために制作した17基のうちの一部である。閉幕後忘れられたものの、現在まで6基が京都市立芸術大学や東京藝術大学などの手によって修復あるいは復元された。会期中はそれらを使った演奏が開催されたが、観衆は勝手に手を触れることは許されていない。その代わりに新たに制作された小型音響彫刻を叩いたり引っかいたりすることで理解を深める趣向が用意されている。そこで生まれる、弾みも妖しさもある響きを通して、観衆はこの音響彫刻の世界に吸い込まれてゆく。

この音響彫刻は万博の鉄鋼館(設計:前川國男)に置かれていた。バシェの音響彫刻については、そこの「スペースシアター」でテープ演奏された高橋悠治(1938-)作曲の「エゲン」がそれらを使っていた。私は面白くて何度も出かけたので、耳に1970年の音の記憶は残っている。スペースシアターは、音響彫刻や、光の演出と音の連動とかいった、統合的な試みの中から、武満徹(1930-1996)や一柳慧(1933-)といった当時の気鋭の音楽家が先へ突き抜けるエネルギーを得た場所だった。一方で、会場内のドイツ館では、カールハインツ・シュトックハウゼン(1928-2007)も定時に演奏をしており、これも私は聴いている。このように、1970年万博は現代音楽の発信基地となっていた。

会場である<京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA>では、そのような50年前の夏を熱く振り返ることができる。もちろん静かにこの彫刻の美しさを眺めているだけでも楽しく、おそらく異なる世代がさまざまな感慨を抱いただろう。私はそこで購入した、現代の演奏家による音響彫刻の演奏CDを自宅で楽しんでいるが、バシェの作品には人に語りかけ、揺り動かす力が潜んでいるように感じる。

佐野吉彦

「バシェ音響彫刻」展 2020.12.30まで開催

アーカイブ

2024年

2023年

2022年

2021年

2020年

2019年

2018年

2017年

2016年

2015年

2014年

2013年

2012年

2011年

2010年

2009年

2008年

2007年

2006年

2005年

お問い合わせ

ご相談などにつきましては、以下よりお問い合わせください。