2022/05/25
No. 820
安井建築設計事務所がビジネスでBIMを使い始めたのは2007年あたりである。そのころBIM導入の熱気に満ちていたアメリカの様子をみると、そこには建築生産プロセスのなかのプレーヤーの主導権争いがあった。戦いはBIMの登場以前から始まっていたのだが、まさにそれは、誰が建築や不動産のデータを握るのかというテーマであった。私が肩入れして見ていたのはAIA(米国建築家協会)だったから、当然建築家にその主導権も責任もあるべきだと思ったものである。そこから当社内でのBIMの標準装備が始まり、設計業務への活用から維持管理段階でデータを活かす展開へと駒は進んでいった。
今日に至るまで、私はこのようなBIMの様々な効用を説く機会をできるだけつくってきた。社会ではプロセスの川上と川下をつなぐ効果の理解は進んだものの、個別プロジェクトや事業者によって切り口も違い、費用対効果をめぐる足枷はまだまだ厄介な問題として残る。私がかかわってきた日事連「BIMと情報環境ワーキンググループ」(2018-)では、全国的定着・普及を推進(各地の設計事務所の活用事例紹介、ポータルサイト[BIMGATE]の開設、 BIMアイデアコンペの運営など)しながら課題抽出を継続中だが、設計事務所によって多様な切り口と活用の仕方があることこそ自然であることを強く認識するようになった。
私が参画してきた国土交通省「建築BIM推進会議」(2019-)では、国の主宰であるだけに、モデル事業からフィードバックしながら標準プロセス作りを念頭に置いている。私が代表となったBIM教育機構(2021-)はBIMの知識の基盤を作りながら専門家資格の確立を目標にしているので、補完関係にあるとも言える。でも、私が最初に感じた通り、BIMとは、建築生産の変革を起こす局地戦のツールでもある。さらに、ここ数年のSDGs・3R・木材活用・DXなどの潮流はBIMに組み込みやすいのではないか。制度を固める作業に手間をかけるのは大事だが、世界の変革の動きに乗り遅れないようにもしなければならない。
BIM =Building Information Modeling
日事連 =日本建築士事務所協会連合会
3R =Reduce、Reuse、Recycle