建築から学ぶこと

2020/10/07

No. 740

国立代々木競技場のエネルギー

魅力的な建築にはさまざまなチャレンジがある。建材で言えば、木材や石や土のような自然起源のものから始まり、歴史の中で生まれた粘土焼成品、鋼材、ガラス、高分子材料を使って様々な表現を導き出してきた。それはバナキュラーな建築でも、産業革命以後の建築においても共通する。しかし、一度実現し汎用化されると、デザインから鮮度が欠けてゆく。そして、山本学治(1923-77)の著述にあるように、「今までの建築の限界は、建築造形のマンネリズムによって生じたのではなく、建築内容から形態を抽出し具体化する創造過程におけるマンネリズムによってつくられた限界である」という結果をもたらしてしまう(「建築批評の眼―現在建築における論理の追求」1972井上書院)。

山本は、丹下健三による「国立代々木競技場(国立総合室内競技場)」(1964)は、それを乗り越えているとみる。「独自でしかもむずかしい発想を、みごとに具体化した粘り強い一貫した、彼の論理的追求の結果として評価したい」(同著)と記している。2020年オリンピックを前に、競技場は耐震性向上やバリアフリー化の改修を終え、さらに大胆さとみずみずしさが際立つようになった。天井のカーブは艶めかしくもある。切り詰めた表現というのではなく、細部まで愉悦を満たした成果と言うべきだろう。実にいろいろな魅力が生まれている。

そうしたことが、この建築をモダニズムの精華と評されるレベルに高めた。モダニズム運動には、近代が生み出した価値にただしいかたちを与える使命があり、丹下は1964年オリンピックのための施設という、それまでの日本に姿を現していないイメージを具現化したのである。代々木競技場という解答のなかで、現在の先にある未来とは効率性・合理性だけの時代ではない、との思いもあったかもしれない。それゆえに私たちの心を揺さぶり、勇気づけてくれるのだろう。

佐野吉彦

そして、東京の景観は変わった

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