建築から学ぶこと

2023/07/19

No. 877

教育基盤が見通す未来

建築BIMが実務での活用が進むのは喜ぶべきことだが、それが専門課程の教育基盤にどう影響してくるかはこれからの課題である。19世紀後半のウィリアム・モリスとアーツ&クラフツ運動の動きを受けて新たな視点での美術・工芸学校が登場し、1919年には幅広い分野のモダンデザインを導く教育基盤として、バウハウスが開校する。そこまでずいぶん時間が経過しているところを見れば、現実から理論を組み立てるにはある程度の醸成期間を要しているようだ。
しかし、このところのデジタル技術の急速な変化を見ると、そう悠長な構えでは間に合わない可能性がある。建築学科の基礎修練を、手書きやCADからBIMへの変化のなかでそう積ませてゆくのか。そこでは基礎知識習得だけでなく、建築創造においてどのように適切な選択をするか、いかにオリジナリティを達成可能かが鍵となる。さらに、昨今の情報過剰社会の中から、生成AIが重宝され始めると、どのように専門家としての倫理意識を醸成するかが重要になっている。これまでの科学技術と倫理の間の軋轢は、原子力や遺伝子操作といったテーマで起こり、規制をかける議論に時間をかけることができたかもしれないが、生成AIが社会を席巻するスピードはその時間を削いでいる。そこに生じる未来が誰もはっきり見えていないようだが、果たして教師は短期間でこの広い守備範囲をカバーできるだろうか。
こう見れば、教育基盤の再構築は並大抵の努力ではすまない。しかしバウハウスの成果が、のちにアメリカ建築の基礎理論や生産プロセスの構築を誘い出しているように、現代の教育基盤の再構築は、必ず次の時代の建築基盤の構築に結びつくのではないか。その意味では適切な産学連携・交流が有効だが、最新情報を読み込むだけでは十分でない。教育機関には先を見通しつつ、変革を担う人材を鍛える使命があるのだ。

佐野吉彦

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