建築から学ぶこと

2020/02/05

No. 707

光の使者、走り続けるー石井幹子さん

照明デザイナーの石井幹子さんが2019年度の文化功労者に選ばれ、そのお祝いの会が先ごろ催された。石井さんは国内外で多くの優れた成果を残してきたが、それに加えて、社会における照明デザインの存在感を高めたことが特筆される。一般によく知られているのは1980年代にスタートした東京駅舎や横浜ベイブリッジ、東京タワーといった建築・土木構築物のライトアップ。これらの仕事は照明デザイナーという職能を世に知らしめたに違いない。このころから、施設の大小・内外を問わず、照明を適切にデザインすることは重要だとの理解が広がったと思う。今や面出薫さんはじめ、いろいろな視点とスケールでアプローチできる照明デザイナーの厚みがぐっと増した。この分野では近田玲子さんや長町志穂さん、長女である石井リーサ明理さんといった女性デザイナーも大活躍で、石井さんはいろいろな点で先駆者だと言える。
もうひとつ、一連のライトアップが、建築や土木の価値の再発見につながったことは重要である。1986年に東京駅舎が艶やかに照らされなかったら、その後の改修によってさらに美しく蘇った姿はなかったかもしれない。また、橋梁をシュッと美しく見せたことは、東京湾ゲートブリッジを美しく架ける取り組みにつながっている。社会の動きを変えた点で石井さんの貢献度は高いのである。
そのような広汎な活動の原点はフィンランドでの修業にある。自著「フィンランド 白夜の国に光の夢」(NHK出版*)では、師匠であるリーサ・ヨハンソン・パッペさんの「トワイライトのときには決して光はつけないで、自然の光を楽しみなさい。人工の光を消して、自然の光に浸りなさい」という言葉を紹介している。光をデザインする以上に、光とともにある自然や文化を静かに探り当てる姿勢には、すっと背筋が一本通っている。今後のさらなる活躍を祈りたい。

 

*1996年刊、2019年復刻

佐野吉彦

凛として柔らかなメッセージ。

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