建築から学ぶこと

2005/12/28

No. 15

アウトリーチ活動が広げる可能性

アウトリーチとは、手を差し伸べるという意味を持つ言葉。アウトリーチ活動とは、専門技能を有する組織(個人)が本拠から出向いておこなう活動を指している。高齢者向けのサービスや、いろいろな分野の啓蒙・普及活動がこれらに含まれる。必要とされるから出向くというものと、きっかけを与えるために出向くもの、の2タイプがある。どちらにしても本拠での活動パターンから離れ、「肌の触れ合う距離での」活動である。

これまでのところ、日本では芸術分野の取り組みが先行しているように思われる。トリトンスクエア(晴海)の第一生命ホールは室内楽がプログラムの柱だが、ここを拠点にする<NPOトリトン・アーツ・ネットワーク>が、アウトリーチ活動にずっと取り組んできた。近くの学校や病院などの施設に出向いて室内楽の演奏会をおこなうものである。これは出向く先の施設にとっても魅力的なメニューとなるが(空間利用の可能性を広げる面でも面白い)、ホールと地域を結ぶ趣旨でも効果的だ。森美術館(六本木)が推進する「パブリックプログラム」のなかにも外へ出張するタイプがある。

多くの芸術推進主体は、それにふさわしい「ハコ」でのパフォーマンスの集客に意を用いてきた。こうした動きはまさに逆のベクトルである。だがここは、とりあえず席を埋めにゆく行動より、レベルの高さ・志の高さをまず評価したいと思う。敏感な反応が得られる場・社会と関わりあう場での活動を尊ぶ運営には、折れない竹のような強靭さを感じるのである。参加するアーティストにも、刺激ある経験となるに違いない。五嶋みどり(バイオリニスト)のように、これを自分の大事な務めと捉える人もいる。

むろん、アウトリーチは芸術分野に留まるべきではない。新しい工場をつくった企業が専門知識を携え、その地域に提供に出向くことなどは、長い目でみて必ず企業(個人)のメリットにもなるであろう。

佐野吉彦

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