建築から学ぶこと

2022/08/17

No. 831

水害の夏に考える

この夏は、関東以西が酷暑に覆われた一方で、東北各地、北陸を豪雨災害が襲った。厳冬期に限らず、自然災害に対する備えはあったのだが、線状降水帯は弱みを突いてきた。日頃穏やかな河川こそ、豹変すると恐ろしい。人的被害が少なかったのは幸いにしても、農業への影響は多大だった。一方で韓国・ソウル都市圏の豪雨では、低地である江南区に水流が集中し、地下部分への浸水被害が激甚だったようである。いずれも、日常から水害対策には取り組んでいたにもかかわらず、である。
私はこの連載第827回で、河田惠昭氏が<「起こった災害は不幸ながら、それは生活文化をうまく組み立て直す起点となる可能性がある。だから、災害の前と後の両面に着目しなければならない。そのような視点から、どの国・どのコミュニティーにおいても「災害文化」の成立が根幹にあるべき>と提言している話を紹介した。自然の猛威はさらに深刻化するだろうから、いかに減災できるかをそれぞれの土地の事情に即して考えるべきなのである。同氏の著「災害文化を育てよ、そして大災害に打ち克て」(ミネルヴァ書房2022)では、土地にかかわるすべての世代が災害への知識と見識を持つべきと主張しているのだが、そこには政治家や技術官僚の的確な認識も問われるだろう。
ともあれ、起こった災害の掘り下げは重要である。澤宮優・著「暴れ川と生きる」(忘羊社2022)は、北部九州4県を流れゆく大河・筑後川の流域の暮らしと文化を丁寧に温かく観察しながら、同時にそれぞれの時代にあった治水技術のプラスマイナスにも触れている。ダム・捷水路(しょうすいろ:蛇行河川のショートカット)・堰など、これらの措置があったことで暮らしが安定した面もあったが、打った手が暮らしの基盤条件を変えてしまった面もあるのだ。筑後川下流域はすでに都市化が進んでいるから後戻りは難しいが、今から改善できる土木技術がないわけではない。筑後川をめぐる歴史は、荒ぶる自然に向き合う中での適切な地域政策とは何かを考える重要な教材である。

佐野吉彦

荒ぶる自然とうまく共存(鹿児島市中央卸売市場魚類市場と桜島)

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