2020/01/15
No. 704
みすず書房の本はどれも知的刺激に満ちているが、建築分野でもいい本を出している。そのラインナップに、三宅理一さんによる建築論「安藤忠雄 建築と生きる」(2019)が加わった。ここでの三宅さんはひとりの建築家の格闘の軌跡を冷静にたどっている。水辺と長屋をフィールドとした少年が、試行錯誤のなかからどのようにデザイン手法を確立し、研ぎ澄ませたのか。使命感をたぎらせながら、着実に社会的なテーマを追究していったのか。受け身でなく、積極的に大地をつくり変えようとするエネルギーはどこから加速したのか。いずれの切りこみも綿密な事実検証をふまえていて安心して読めるが、なかでも建築を実現させるプロセスにおけるコミュニケーションの現場を明らかにしており、興味深い。
たしかに、安藤さんは人と人の間で建築をつくっている。このあたり、人文系の読者が読んだとしても、建築という目に見えない目標をいかにして実現に導くかをうまく理解できるのではないか。その意味で、この本は単なる作家論を越えているかもしれない。建築の基本を探り当てようとする著作になっている。
ところで、大阪・中之島にある国立国際美術館で開催中の「インポッシブル・アーキテクチャー」展(*)では、安藤さんの作品も紹介されている。同じ島の大阪市中央公会堂に卵型のホールを内包した有名なドローイング「アーバンエッグ」(1988)で、そこには強烈な思いが宿っている。このあとここで仮説として示したテーマをいろいろな場で実現に持ち込んでいったところは見事だ。それは同じ展覧会で見るミース・ファン・デル・ローエ「ガラスのスカイスクレーパー」(1922)の執念と共通する。どの時代も、建築家はそうしたしぶとさとともに生きているのだろう。
* 埼玉県立美術館から巡回。なお、表記は正確には、次のとおりである:「インポッシブル・アーキテクチャー ―建築家たちの夢」