建築から学ぶこと

2014/10/15

No. 445

かたちをつくる、いい歳月

2014年のノーベル物理学賞が赤崎勇・天野浩・中村修二の各氏に与えられることが決まった。ここに複数の名前が挙がることで<青色LEDの開発>に至る軌跡が解き明かされているような感じである。彼らがそれぞれのステージで証明し、もたらした成果は世界に広がり定着したが、誰かが彼らに課題を乗り越える勇気を与えたはずである。中村修二氏もそのことへの感謝の言葉があった。たしかに、個人がいかに褒めたたえられようと、たくさんの間接的な寄与者がいなければ、取り組みは「結晶」しない。でも、表彰は個人に向けてこそ価値が明らかになるものだ。

先日、菅順二さん(竹中工務店)の日本建築学会賞を祝う会に出かけた。対象となった<明治安田東陽町ビル>はオフィスのありかたを無理なく問い直したものである。彼の足跡のなかの初期の青山クラブや松本の開運堂から始まった、光が視線と意識を自然に上部へ導く考え方はここでも展開され、建築のカテゴリーを越える普遍的な解を導き出した。ひとつの建築プロジェクトは、設計者が固有に追究してきたテーマと、建築主との共同作業というライブの側面とのかけあわせ。建築主がいればこそ幸運は生まれた。

無名の作り手が生み出したと見られがちな工芸品も、本来、具体的な誰かのためにつくられたもの。まさしく人と人の間に生み出された成果である。だからこそ、<根付>も<扇子>も最高の品質と個性を獲得できるのだ。こうしてみると、どの分野も、すぐれた成果品とは技術的成功ではなく、人間が生み出した文化に他ならない。工芸・美術・建築・素材技術のあいだはなめらかにつながっている。そのようなかたちをつくる空気の中で仕事を続けてきて、私自身が60歳になった。この道の前にも、後ろにも人が続いているのが見える。いい歳回りだ。

佐野吉彦

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