建築から学ぶこと

2009/01/14

No. 164

五感の初春

用あって浅草に出かけたとき、ある店の看板におおいに心惹かれた。残念ながら立ち寄る時間がなく、悔しい思いで前を通り過ぎた。次の日、ある新年会に出かけたら、その会場にその店、「駒形どぜう」が出張して店開きをしている。かくして思いは叶えられた。定番の田楽とどぜう(どじょう)鍋を味わって、少しばかりの幸運を噛みしめた。

で、話には先がある。そのあと、お茶を飲んでいると、私の前の見知らぬ2人連れが「あ、こちらも佐野さんだ」と声を掛けてきた。胸の名札を確認しあうと、その2人と私含めて皆佐野姓だったのだ。そこから先はお互いのルーツ話でささやかに盛り上がった。どうやら、鍋が隣りあう日をつなげ、茶が隣りあう人をつなげたようだ。

この日のできごとは驚くべき偶然でもないが、ささやかな遭遇だからこそ、次の展開に連なる妙味がある。そうしたつながりによって構成されるのが都市であり、コミュニケーションを生む仕掛けがあちこちに潜むのが都市の面白さと言える。こういうとき、「食」は役まわりとして欠かせないだろう。文字情報で人は動かなくても、五感(味覚/嗅覚)には波動状に広がり、人のマインドと都市を揺り動かす効果があるからだ。都市の再活性化、消費マインドの掘り起こしに、五感の開拓と活用は有効だと思う。

さて昨秋、自宅の洗面所とバスルーム(+洗濯機置場)をリフォームした。合計した面積は変わらないが、洗濯機がコンパクトになったこともあって、バスタブを長手方向に多少延ばすことができた。最も大きな変化はバスルームを囲う壁のうち洗面側の2面をガラスにしたことで、風呂に浸かったときの広がり感が格段に向上した。家庭内での運用さえ間違えなければ、この改修は明らかに入浴時間を楽しむ感覚を拡張するものだ。五感(視覚)にかかわる改良が別の五感(触覚)を開発したのである。

さらに付け加えると、発注者と設計者を兼ねる経験自体も、新鮮な感覚であったのだが。

佐野吉彦

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