建築から学ぶこと

2020/07/01

No. 727

財産区にある知恵

我々はいろいろなコミュニティに所属している。企業であったり、地域団体であったり。身近に困難がある状況においては、それらは構成員の安全安心を保つ役割を担ってくれるはずだ。職業団体なら、積極的な行動を促す役割もするだろう。一方で行政を見ると、国や都道府県では縁が遠すぎる。自然災害の場合には、最小単位の自治体でないと反応が感じられないからだ。だが、地理に基づいた区分すなわちコミュニティと言い切れないケースは多い。地域で静かに暮らしている人をこうした行政単位がどこまで目配りできるのだろうか。そう考えているとき、あるきっかけで「財産区」のことを思い出した。

財産区とは終戦後に現れた概念で、町村合併などの動きのなかで、村が所有していた財産をそのまま特別に維持しておく方式である。現在も自衛隊演習場に山林を貸している御殿場市の事例、温泉を所有する城崎町の事例などがあるが、都市部では神戸市に多くの財産区が存在している。このうち旧・住吉村(現・東灘区内)が管理していた土地などは少し特殊で、いま一般財団法人住吉学園の名義で保たれている。そのホームページによれば「大正7年財団法人私立睦実践女学校として発足し、その後、昭和192月武庫郡住吉村に財団が委譲されてからは、現名称である財団法人住吉学園に変更して、住吉女子商業学校を開校し、昭和233月末に廃校するまで、学校経営を目的としていた。時期をほぼ同じくして、当財団は武庫郡住吉村よりその村有財産の寄贈を受け、そこから生れる果実をもって、現在行っている地域社会の教育・文化・福祉・コミュニティに関わる事業活動領域へと大きく方向転換した。」とある。

良好な住宅地として昭和初期に発展した旧・住吉村の山手は、阪神大震災を経ても価値は減じていない。そのことに住吉学園は無形有形の貢献をしてきたが、さきごろ住吉学園は「住吉にお住いの皆様方に、新型コロナ復興支援金の名称で支援を行うこととなった」とホームページで公表している。これこそ、危機に際して能動的な地域コミュニティではないか。財産区の全貌を知っているわけではないが、地域社会を維持する知恵がここに潜んでいる可能性がある。

佐野吉彦

昭和初期に発展した阪神間地域とその文化

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