2014/07/30
No. 435
棚田は、日本が誇るすぐれた人文的風景である。傾斜が強く農作業に本来不適なはずの場所をデリケートに刻みこんで、流水をコントロールし苗を植え、毎年それらを丹念にメンテナンスして維持してきた。そのひとつ、小豆島の山間部に広がる中山千枚田は良好な状態にあり、日本の棚田百選(農水省)にもリストアップされている。すでに全国どの棚田も農村の自助努力だけでの維持が難しいことは明らかで、今後は社会システムとしてどのように維持の手間と費用をかけてゆくかを考えてゆかねばならない。
それにしても島での棚田とは希な例である。じつは小豆島は3万人の人口を擁し、アプローチが船便に限られる島としては最大なのである。この島は高松・岡山・姫路などと日常的に結ばれており、今も昔も瀬戸内海の島嶼ネットワークのなかで重要なコアである。温暖にはちがいないが、農業への取り組みが熱心なのはその好位置ゆえでもある。島の集落で散見されるベーハ小屋にはかつての煙草生産の名残を見ることができるが、現代のオリーブ生産は日本を代表するほどの生産量を誇るものとなっている。
文化の面でも魅力に富んでいる。この地に続く農村歌舞伎の伝統は、まさしく豊かな農が育んだものと言えるが、このところは、映画の撮影地としても、また瀬戸内アートトリエンナーレ(2013年開催)の開催会場のひとつとしても、風景とアートの新たな相互反応が試みられている。国際的にも名が知られてきており、あらたな人と人の縁を生みだしつつある。この島の歴史に、高山右近をかくまった史実をはじめキリシタンの物語があるように、離島であることとネットワークの要であることの両面がさまざまな歴史を生み出してきた。今夏、我々が設計を担当した公立病院の工事が当地でスタートしたが、この島ならではの中枢機能を果たすことになるだろう。