2017/07/19
No. 582
山崎正和さん(1934年生)は、多様な活動をしながら、自らの本分においてプロフェッショナルであった。逆に言えば、プロとして振舞えない活動では一歩控えめな位置に立っていた。その見極め方・処し方は明確だ。そうした興味深い人生が「舞台を回す、舞台がまわる 山崎正和オーラルヒストリー」(中央公論新社2017)で語られる。山崎さんが得がたい知性であることは良く理解できるが、特に劇作家であること、学究(美学・哲学)であること、評論家であることにおいて、自らの考えと、それが影響を与えた空気に対して責任感を感じている。生き方が知的であるとはこのことだろう。
一方で表現者としての熱い信念が渦巻き、一方で知の追求過程がひもとかれる。そして事態に巻き込まれる中での冷静な考察がなされる。その人生にはぶれはないけれど、さりとて出会うできごとはきれいごとばかりではなく、失意もあるところが人間くささと痛快さに満ちている。とは言っても、かれにとっての人生のキーパーソンとなった嶋中鵬二さんや佐治敬三さんにかかわるくだりは、とくに魅力的で、愛惜の念にあふれている。山崎さんに嘘はないのである。
この快著を実現させたのは、御厨貴さんを中心とした聞き手陣(あるいは同行者)であり、山崎さんが多くの時間を割いて関わったサントリー文化財団である。それぞれに、生きて役割を果たすことへの責任感に満ちている。こうした聞き語り、オーラルヒストリーは現役の人たちがいま確実にこなしておくべきことではないか。人が事をなすにあたって、その人なりに磨き上げてきた問題意識があり、その人が結んだ人とのつながりがある(*)。思想も行動も純粋な空間や場面では生まれない、ということだろうか。それらすべてが貴重なデータベースでもあり、人生の教訓になっている。
* 黒川紀章さんが何度か登場する。