建築から学ぶこと

2018/04/11

No. 618

季節の変化があればこそ、人は。

日本の3月から4月は花の季節である。眼の前で春が歩みを進めてゆく光景に、自らの希望を重ねあわせることを、人々は自然におこなってきた。そのようなメッセージの歌は日本に山ほどあるが、サイモンとガーファンクルの「4月になれば彼女は(April Come She Will)」(1966)にあるイメージにも同じ感覚を見る。もっとも、この歌の4月は雨降りで川の水かさが増している。確かに、照葉樹林帯ではない風土ではまだ3月・4月は天候が不安定で、本格的な春への序奏段階にある。
アメリカ生まれのイギリスの詩人T.S.エリオットは「荒地」(1922)の冒頭で「<4月は残酷な月である>と表現して希望のない空気を漂わせ、チョーサーの「カンタベリー物語」(14世紀)の冒頭では、まず4月の雨を幕開けとして巡礼の道のりが始まる。南イタリアに<穏やかな4月を迎えるために、3月の寒さが必要なのだ>との言いまわしがある一方で、イギリスには<4月の雨は5月の花を咲かせる>(April showers bring forth May flowers)との美しい言葉がある。実はこれは<苦労はやがて報われる>といった意味のことわざなので、イギリスの4月はよほど人を不安にさせるものなのだろうか。
そして、心待ちにしていた輝く5月がやってくる。ハイネの詩をもとにシューマンが書いた「詩人の恋」(1840)は5月から始まる。こう見ると、循環する季節は人類が地上に生きるうえで重要な舞台装置になってきたようである。季節の変化なしでは詩はうまれなかっただけでなく、人格もコミュニティも、ファッションも都市も建築も、微妙なニュアンスやポジティブなありかたを獲得できなかったに違いない。たとえば、窓の目的は、春のはじまりを実感するためにあり、その移り変わりを見守るためにあるのではないか、と思ったりする。

佐野吉彦

1月の阪神大震災のあとにも、3月の東日本大震災のあとにも、花の季節はやってきた。どれだけ励まされたことか。

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