建築から学ぶこと

2012/09/12

No. 341

手ごたえあり、オレステイア

ヤニス・クセナキス(1922-2001)が作曲した「オレステイア」はオペラというよりも<音楽劇>と名付けたい作品。ギリシャ古典悲劇がベースとなる物語は一見複合しているが筋は明瞭である。だから、そこに宿るメッセージはきちんと観衆に伝わらなければならない。それには演奏会場として音響性能が精緻なサントリーホールの上演は適切なチョイスであった。バリトンの松平敬さんの凄腕も(1人2役で演じるところは落語のようでもあり、浄瑠璃のようでもある。それを、すべて楽譜で仕込みがなされるのがクラシック系ならではのこと)、山田和樹さんの冷静な手綱さばきによる演奏もすばらしいが、バルセロナ・オリンピックの開会式の演出で知られるラ・フラ・デルス・バウス(La Fura dels Baus)の演出も魅力たっぷり。映像と照明を巧みに用いながら、そのなかをプレイヤーが自在に動き回っていた。

物語の結末は民衆の喜びで締めくくられる。きわめて祝祭的だが、この大団円の背後に流れてゆくツイッターの応答の画像はなかなか風刺が効いていた。こうした闊達さを許容しながらのしっかりしたホ−ルでの公演は、ギリシャ演劇の基本であるコロス(コーラス)の世界を崩さないために有効であったと思う。そのはまりようは、毎夏恒例のサントリーホールでのサマーフェスティバルのなかでも屈指のものだった(開演前も後も珍しいほどの熱気)。観衆としても、設計と改修に携わってきた私にとっては心から嬉しい成果だ。おそらく、ル・コルビジェのもとで設計スタッフとして働いたクセナキスは、ひとつの建築がもたらす<潜在的な可能性>を(あの世で)一緒に楽しんでくれたのではないか。そう想像するのはなお楽しい。

今後ともホールの意欲的な試みに期待したい。良いホールは、優れた運営者によって磨きがかけられるからだ。

佐野吉彦

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