建築から学ぶこと

2013/09/04

No. 390

飛べ、黄金の翼に乗って

「未来のいえ」展(2013.6.22-7.28、西宮市大谷記念美術館)では、國府理(こくふおさむ)によるたくさんの魅力的なのりものが展示されていた。<私にとって「のりもの」とは(中略)ここではない何処かへ連れて行くことができる、その可能性こそが重要な機能だった>と作家自身が記しているように、既存イメージを越えた造型である。

人は自らの能力を広げるために機械を開発し、それによって社会のポテンシャルも高まった。しかし、のりものによって形成された社会システムは、人を管理し、人を傷つけもする。一旦できあがった機械は、改修もしくは普及・量産するために、部品と手順の標準化に進んでゆく。それゆえにシステムとして定着するのだが、イメージづくりはだんだん後戻りしにくくなってくる。國府さんの表現行為は、そうした桎梏をしなやかに解き放ってみせる。現代を批評しつつポジティブな未来を描いているのだ。

現有の技術をチャーミングに統合するアーティストの腕と眼がもたらす効果。アートもしくはデザインが持つ統合力が、人の魂に呼び掛けている。同様の空気を持つ展覧会が、八谷和彦が「Open Sky 3.0-欲しかった飛行機、作ってみた-」展(2013.7.13-9.16、アーツ千代田3331)で、ここでは<個人的に飛行装置を作ってみるプロジェクト>のプロセスと成果を楽しむことができる。どのように知恵を合わせて、飛ぶ夢は実現できたのか。ここでは観衆が飛行を追体験できる工夫もあり、観る者が同じ夢を重ね、同じ翼に乗ることができる。アーティストは観衆に、デザインという行為に委ねられた使命についてともに考えようと問いかけているように思われる。

ところで、これらの会場は官民の違いはあっても、いずれも地域に開いたアートのありかたを模索し、成果を収めてきた場である。足跡の中で、尖った切り口を大事にしていることは評価できよう。地域に対して受動的ではなく新たなものに眼を開かせる姿勢は重要であり、その結果は美術をめぐる経済、また地域経済全体を活性化させることになる。

佐野吉彦

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