建築から学ぶこと

2015/03/18

No. 466

俯瞰し、統合する力がもたらすもの

今年に入って、ジョン・ジャーディ(1940生)、フライ・オットー(1925生)、マイケル・グレイブス(1934生)ら建築家たちがこの世から去っていった(この順で)。彼らそれぞれ、都市空間に活力を与えた人、前例のない構造形式を示した人、モダニズムを問い直した人と、視点と守備範囲は大きく違うけれども、いずれも飛び抜けた構想力を持つ顔ぶれである。その時代が求めるテーマを正確に捉える力を備えており、問題提起型のプロフェッショナルとして活躍してきた。幸いなことに、多くの影響力があったゆえに、すでに個々の分野において優れた後継者が育ち、建築界における駒は遅滞なく前に進んでいるように感じる。

最近、オーストラリアの高校教育から生まれた教育・学習プログラム「ビッグ・ヒストリー・プロジェクト」が注目されているという記事を読んだ(朝日新聞2015.3.13)。そこには、ビッグバンから近現代までを大きく俯瞰しながら生命について考える、というような視点がある。専門分野それぞれの位置を確定してしまっている知識を再統合することにより、人間と環境を正しく捉えようとする熱意がそこにある。いまは主として高校生を対象としている試みが広がりを持てば、現代にありがちな、教条主義的に振れがちな発想を冷静に引き戻す力になるかもしれない。

その取り組みは、建築の行く末を解き明かす上でも参考になる。人類の長い歴史のなかでは、幸運なケースを除けば作品は永続性のあるものとはならない。しかしながら、建築家が作品を生みだす過程で鍛えた方法論や哲学については消えることはない。ビッグ・ヒストリー・プロジェクトに倣って、時代にどのように建築が関わってきたかをていねいに押さえてみれば、建築と都市の望ましい未来を導き出す知恵が得られるのではないか。それを高校生に学ばせてみるのも悪くないと思う。

付記 故・梅棹忠夫さんは、著作で「・・・かれ(ダ=ヴィンチ)の精神の偉大さと、彼がその手帳になんでもかきこむことのあいだには、たしかに関係があると、私は理解したのである」と述べている。賢人は、多様な情報をひとつのフレームに収めることの大切さに着目した。

佐野吉彦

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