2022/08/03
No. 830
1900年代から2000年代初頭に、エンロン事件やITバブル、さらにリーマンショックが続いた。先進国の経済が転換局面にあったことは間違いなく、その教訓も反映しながら<CSRと企業価値>・<ESG投資>など、経営の根幹にかかわる新たな視点が登場した。<エシカル(倫理的)投資>・<クラウドファンディング>といった概念が、消費行動をダイナミックに変える動きを始めたのもこの時期である。
日本でも、企業経営の透明性、社会への寄与にこそ価値があるとみられるようになったが、消費行動における大きな変化は、東日本大震災がきっかけになっている。興味深いのは、その後の日本で、いわゆる「応援消費」と呼ばれるボランタリーな心根が、新たなマーケティングの視角、クラウドファンディングによる調達、さらにふるさと納税といった新制度と結びついたことであった。これまで寄付文化がなかったと思われていた日本が、自律的ルールを形成しながら、いつのまにか興味深い成果を挙げつつある[「応援消費」(水越康介著、岩波新書2022)参照]。もちろん、デジタルの進化がこの結びつきを加速させたことがその背景にある。
たとえば、建築の実現というテーマでも、「応援消費」を活用して広く資金調達する例が増えてきた。改修やアートや備品の購入であれば扱う金額が小さいが、総じてさまざまな調達の新たな回路が大きく広がる局面と言えるだろう。一方で、建築ができあがるプロセスが幅広く開かれたものになると、そこでの透明性、プレーヤーそれぞれに倫理的・社会的責任が問われるのも自然である。すでに公共工事と民間工事の境界は流動化しているが、古典的な建築生産や専門領域の区分も揺らいできている。おそらく、この中で誰が価値創造の「正しい」リーダーとなるかが問われるのではないか。